[技術ノート]真空吸引装置と新しい光軸確認装置による照度計架台
A Holder for Illuminance Meter by New Way of Confirmation of
optical axis and Vacuum Suction Device
後藤竜也_鈴木力_薄田誠之(・標準部)
1. はじめに
当所における照度計の校正業務は昭和46年から,また検定業務は平成5年から開始され,今日まで多くの方々に利用していただいている.日常生活を営むうえで欠かせない光については,例えば,ある作業における照明要件が日本工業規格で規定されていたり,労働安全衛生規則やいわゆる風営法のような健康や安全のための規則が定められたりしている.
このように,日常の様々な場面で明るさについての注意が払われており,その明るさの測定には照度計が用いられる.
当所に依頼される照度計の校正や検定の件数は,労働衛生における作業環境管理などが重要視されるなか年々増加しており,今後もこの傾向は続くと思われる.
しかしながら,照度計の校正の方法や照度計を保持する架台などの機構は,業務開始以来基本的に変わっていないことから,増加し続ける業務量と短納期校正などの要望に対応するためには,何らかの工夫が必要となってきた.
そこで作業効率化の一つの手段として,測定の信頼性を損なうことなく,掛け替え作業や位置決め作業を効率的に行うことができる架台の作成を考えた.
今回,真空引きによる吸引保持機構,プローブを用いた測定基準面の位置決め機構などの,従来とは全く異なる方式による照度計架台を作成し,所期の目的を達成したので報告する.
2. 照度計の校正方法
照度とは,ある照らされる面に入射する光束の密度のことであり,その単位には通常ルクス(lx)を用いる.
その面を照らす光源が点光源であるとみなせる場合,その面における照度は,光源の光度値を距離の二乗で除したものとなる(これは,一般に距離の逆二乗の法則と呼ばれる).
例えば,光源の光度が1カンデラ(cd)であった場合の照度は,光源からの距離が1mの位置では1lx,同じく距離が2mの位置では0.25lxとなる.
照度計の校正は,ある面における照度の理論値(校正値)と照度計が示した値との関係を示すものである.
第1図で示すように,光源には一意の方向で値付けされた光度標準電球(以下,「標準電球」という.)を用いる.
光源からの距離(測光距離)は,照度計の測定基準面(乳白色ドームの先端であることが多い)と一致するように調整された架台の指針が示した,測光ベンチに設備された距離目盛から知ることができる.
第2図に実際の測光ベンチの様子を示す.
照度計の校正においては,照度計の設置状態及び測光距離の測定を正しく行うことが重要となることから,標準電球及び照度計の取付けは慎重に行わなければならない.
また,測定は光軸上で標準電球と照度計とを正対させる必要があることから,光軸上に置くことができる照度計は常に一台のみであり,一度に複数台の校正はできない.
第1図 照度計の校正の模式図
第2図 実際の測光ベンチ(7m)
第3図 本装置の外観 (a)本体(照度計架台部) (b)真空ポンプ
3. 架台の構造
校正依頼される照度計の大きさや形状は多種多様であるため,架台の作成にあたっては,次のようなことに留意した.
第3図に新しく作成した本装置の本体と付属する真空ポンプの外観を示す.
本体は測光ベンチのレール上に置かれ,6つの車輪により安定してレール上を移動することができるようになっている.
真空ポンプは本体と離れた場所に置かれ,内径4mmのエアチューブで吸引口と結ばれている.
次に本装置の特徴的な機構を,従来の装置と比較しながら説明する.
3.1 照度計の保持機構
従来の装置の照度計保持機構は,バイスにより照度計の側面を締め付けて固定する方式であった.
この方式では,挟み込む照度計または受光部が適度な大きさであって,かつ,バイスの口金に接する部分が平らな形状のものの場合はよいが,照度計の大きさや形状が,挟み辛いもの,例えば小型の受光部や丸みを帯びているもの,あるいはバイスの開口幅以上の径をもつ大型の受光部などでは,専用の補助具を必要としたり,専用架台への取り替えが必要であったりするなど,照度計を設置する作業に手間取ることも多かった.
そこで,本装置の照度計の保持機構は,真空ポンプの吸引力を利用して照度計の裏面を吸引して保持する方式(真空吸引方式)とした.
この機構と後に説明する位置決めの機構により,依頼される殆どすべての機種について容易に対応できるようになった.
照度計の裏面に当たる吸引口はスポンジとなっており,多少の凹凸がある場合でも吸い付けが可能である.
この吸引口には直径20mmと30mmの二種類を用意して,対象物の大きさに応じて取り替えることができるようにした(第4図).
また,真空ポンプは小型軽量メンテナンスフリーのリニア駆動式のものとした.
一般的な大きさの照度計であれば脱落することのない吸引力が得られるが,万一に備えて,照度計を下支えするプレートを設けている.
真空ポンプの性能を第1表に示す.
第4図 吸引口の様子(a) 直径20mmの吸引口で小型の受光器を保持しているところ
(b) 直径30mmの吸引口で一般的な大きさの照度計を保持しているところ
第1表 真空ポンプの仕様
3.2 受光部の位置決め機構
標準電球と照度計とを光軸上で正しく正対させるには,受光部の高さ,横位置,角度等を調整する作業(以下,「光軸位置決め作業」という.)が必要である.
また,測光距離を正しく測定するためには,測光距離を示す指針と測定基準面とを真に一致させる作業(以下,「測定基準面位置決め作業」という.)が必要である.
従来の光軸位置決め作業では,照準器と呼ばれる装置を標準電球と照度計の間に介在させて行う必要があった.
(照準器とは,十字の指標線が刻まれたガラス板を配したものであり,これに標準電球の光を入射し,出射された指標線の像を受光部に投影するものである)実際の作業は,照準器により投影された指標線の像と受光部の中心とが一致するように,架台の支柱を上下させての高さ調整や精密ステージを用いての横位置調整を行っていた.
また,測定基準面位置決め作業は,天井から懸垂された複数の糸がつくる面と一致するように,指針及び測定基準面の位置を調整する方式であった.
この基準糸は,測定に影響を与えることのないよう,ベンチの最後方に張られているため,測定基準面位置決め作業を行うたびにその場まで移動しなければならないのが難点であった.
第5図に張られた基準糸の様子を,第6図に基準糸がつくる面(糸を真横から見たときに3本の糸が重なる状態)と,照度計の測定基準面とを一致させるために,真横から見ている様子を示す.
本装置では,光軸位置決め作業と測定基準面位置決め作業とを容易にするため,小さなピン状のもの(以下,「プローブ」という.)を利用した新たな光軸確認装置を考案した.
このプローブの先端はあらかじめ架台の指針と一致するように調整してあるため,これを光軸上に配置したときのプローブの先端と受光部の中心とが,ちょうど触れ合うように受光部の位置を調整すれば,光軸位置決め作業と測定基準面位置決め作業とが同時に完了する.
これにより,照準器が不要となるとともに,ベンチの最後方まで移動する必要もなくなった.
位置決め作業が終われば,プローブが取り付けられた支柱を前方に倒すことで,光軸確認装置を光路から外し,測定を妨げないようにすることができる.
第7図に位置決め作業時の様子を,第8図に位置決めされたプローブの先端と受光部の様子の拡大図を示す.
また,第2表に各ステージの調整可能範囲を示す.
なお,プローブにはバネによる約5mmの緩衝機能があるため,受光面とプローブの先端とが接触した場合でも受光面に傷を付けることはない.
第5図 天井から吊るされた3本の基準糸(従来の方法)
第6図 基準糸が作る面と測定基準面とを合わせる
第7図 光軸確認装置による位置決め(本装置)(a)位置決め作業時 (b)光軸確認装置の前倒し
第8図 プローブの先端と測定基準面が一致したところ
第2表 調整機構の可動範囲
4. 装置の効果
4.1 作業時間
本装置の使用による作業時間の削減効果を確かめるため,一般的な形状の照度計(9機種14台)の掛け替え作業を行ったときの,一台ごとの掛け替え時間の測定を,従来の装置と本装置とについて行い比較した.
また実際の業務で想定される状況に合わせ,同じ機種が複数台続く場合と,一台ごとに変わる場合との比較も行った.
この結果,一台当たりの掛け替え時間は約3分の1に短縮されており,9機種14台の所要時間は,従来の装置で19分12秒であったものが,本装置では6分35秒となった(第9図).
また,従来の装置では,同じ機種が続く場合の二台目以降の掛け替え時間の平均は43秒で,一台ごとに変わる場合の掛替え時間の平均は1分44秒であった.
一方,本装置においては,それぞれ19秒と33秒となり,一台ごとに機種が変わった場合でも,掛け替え時間は大きく変わらず,作業が平準化されていることが確認できた.
第9図 9機種14台における掛替作業時間の比較
4.2 位置決めの繰返し性
測定基準面の位置決めの繰返し性は,同一の照度計の掛け替え作業の繰り返しにおいて,設置した照度計が900lxを示すときの測光距離から求めた.
実験は,照度計の取付け前に必ず架台の調整機構を適度にずらしたうえで行った.
同様に従来の装置による実験も行い,その結果を比較した.
測定結果を第3表に示す.
なお,実験における目盛の読み取り分解能は,日常の業務と同じ0.5mmとした.
本装置における10回の繰返し測定の測光距離のばらつき(標準偏差)は0.16mmで,これを照度に換算すると0.29lxであり,標準不確かさは0.09lxとなる.
一方,従来の装置では,測光距離のばらつきは0.26mmであり,標準不確かさは0.15lxであった.
これにより,本装置における位置決め作業は,従来の装置に比べて同等あるいはそれ以上の精度で行えることが確認できた.
第3表 位置決めの繰返し性
5.おわりに
本装置の作成により,掛け替え作業及び位置調整の作業性が大幅に向上した.
また,作業時間の短縮は同時に標準電球の点灯時間の短縮にもなり,高価な消耗品である標準電球の延命にも寄与すると考える.
最後に,本装置の作成に尽力していただいた株式会社ソーケンの諸氏に感謝の意を申し上げる.
(平成26年8月26日受付)
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電気検定所技報Vol.49,No.4 (p43)
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