近年、数百アンペアから千アンペアを超える規模の直流大電流に関する校正依頼が増加しています。また、これら計測器は大型で重量があり、移動が困難であることから実際に装置が設置されている場所での校正、いわゆる現地校正(巡回試験)での依頼が多くなっています。このような要望に対応するため、作業の効率化を検討した結果、従来の標準分流器に代えて電流センサを新たな標準器として導入し、現地での直流大電流に対応した校正を開始しました。また、昨今のISO/IEC 17025に基づく校正の需要も考慮し、JCSS校正にも対応可能としました。今回は、電流センサの利点、導入経緯、そしてJCSS校正の対応範囲についてご紹介します。
従来のJEMICの校正では、100Aを超過する校正を行う場合、大型で重量のある標準分流器を標準器として使用するため、準備に時間と手間がかかるだけでなく、移動中の衝撃で標準器の抵抗値に影響を与えないよう注意深い取扱いを必要としていました。また、依頼者からは校正対象の計測器やそれらが設置されている製造ラインの稼働停止時間を最小限にして欲しいとの要望があり、できるだけ短時間で測定を終えられるよう効率的に作業を進める必要がありました。しかしながら、標準分流器を使用する場合、通電時間による熱特性の影響を考慮しなければならず、通電後に抵抗値が安定するまでの待ち時間を伴うため、校正に時間がかかるという課題もありました。
そこで、電流センサを導入することで、コンパクトで軽量な上、現地校正で求められる不確かさにも十分対応できると考え、2022年度から導入に向けて準備を始めました。今回、導入したコア型センサの動作原理は、コアを貫通する電流により発生する磁界を検出して電流値を測定するものです。また、電流回路中に接続する必要がなく非接触で電流測定できるため電力損失が少ないという特徴があります。従来の分流器では電力損失により発熱が起こり、その発熱による抵抗値への影響を考慮する必要があるため、数分から15分程度の通電時間が必要でした。しかし、電流センサではこのような熱特性の影響が少ないことから通電時間を短縮することができるため、作業時間の短縮も可能となります。 機材の購入や電流センサの安定性調査、現行方法との校正結果の比較、不確かさの要因に対する検証を行い、2024年9月に直流-1000 A~1000 Aの校正範囲で現地校正によるJCSS校正の認定を取得しました。
このように、電流センサを導入することにより、測定回路のコンパクト化や測定時間の短縮が期待できますので、大電流測定のシステム構築の際にはひとつの可能性として導入を検討されてもよいのかもしれません。
電流センサを使用して実施する現地校正(巡回試験)の主な対象機器は、大容量電流電源、電流測定装置、電子負荷装置の測定側などです。校正の不確かさ(信頼の水準 約95 %)は0.10%程度となります。また、電流センサ自身のJCSS校正も行っていますので、是非お問い合わせください。
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